脳神経外科研修カリキュラム 安曇野赤十字病院脳神経外科
Ⅰ. 研修スケジュール
本研修プログラムは信州大学脳神経外科卒後研修カリキュラムに準じて行われ、脳神経外科を選択科目として選択し最大3ヶ月研修した場合について述べる。この間に脳神経外科の基本的な知識と技術を研修し、研修終了時には意識障害、脳血管障害、頭部外傷を中心に、脳外科疾患の診断、必要とされる緊急対応や初期治療の理解と習熟を目標とする。また、卒後研修終了後、脳神経外科専門医を目指す医師は、大学脳神経外科(脳神経外科専門医訓練A項施設)での研修プログラム(4〜6年間)に従って、当院での研修が可能であり当院(脳神経外科専門医訓練C項施設)での研修期間及び経験手術症例はそのまま専門医受験資格の研修期間と必須手術症例の一部として評価されている。
○ 各研修スケジュール表
初期2週間:オリエンテーション
(研修に先立ち研修目的、項目を指導医と相互確認したうえ、当初より研修1ヶ月目の研修を行いながら、初期2週の間に脳神経外科医としての心構え、脳神経外科概論、救急医療入門に関するミニレクチャーを予定する。)
研修3ヶ月間の研修(外来及び入院患者を対象):具体的内容は下記テーブルに示す。
1.研修スケジュール表
1ヶ月目 | 2ヶ月目 | 3ヶ月目 |
○担当する症例については、指導医のもとで診察・カルテ記載・検査指示・与薬指示の記入 ○主な疾患についての知識を深める ○救急対応を始め、治療方針についての理解を深める ○顕微鏡下手術には、アシスタントとして参加し、術野の観察を行なう ○術後のビデオテープ活用により、微小脳解剖について、理解を深める ○全ての脳外科救急に、指導医と参加する |
同 左 ○指導医の当直日は、当直を経験する |
○習熟度に応じて指導医の手術に参加し、慢性硬膜下血腫の手術、脳血管造影手技の一部について術者として関与することが可能 |
2.週間スケジュール
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | |
午前 | 8:15 フィルムカンファランス | 8:15 フィルムカンファランス・術前カンファランス・担当患者回診 | 8:15 フィルムカンファランス | 8:15 フィルムカンファランス | 7:45 抄読会 8:15 フィルムカンファランス・術前カンファランス 新生児回診 |
担当患者回診 |
手 術 ↓ |
指導医と回診 | 担当患者回診 リポート作成 |
指導医と回診 リポート完成 |
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午後 | 脳血管造影等 | 13:00リハ・カンファランス | 脳血管造影等 | 手 術 | |
担当患者回診 | 周術期管理・担当患者回診 | 担当患者回診 | 担当患者回診 | 周術期管理・指導医チェック・担当患者回診 |
脳外科研修のポイント
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救急医療:脳卒中・脳外傷・・・・・救急患者搬入時から、指導医と共に患者に対応し、気道確保、血圧コントロール、脳圧コントロールなどの救急処置に参加し、緊急画像診断(CT/MRI/脳血管造影など)の進め方、手術、保存的治療の治療方針決定ができるように指導する。
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毎朝、フィルムカンファレンスがあり、読影能力の向上を図る。
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毎週、リハビリカンファレンスがあり、リハビリの進め方、社会復帰への流れを理解してもらう。
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週1回の抄読会では、適当なものを選んで読んでもらう。
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習熟度に応じて、指導医による直接指導下で、脳血管造影検査に際して、カテーテル操作の一部を行なってもらう。
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症例を選んで、指導医の下で入院患者を担当してもらい、継続的な診察・処置が出来るように指導する。
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担当患者のプレゼンテーションをPCプレゼンテーションで行なってもらうようにする(3ヶ月目に1例)。
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脳卒中・脳外傷のあらゆる症例の救急医療、緊急手術等を行なっており、また、待機手術でも数は少ないが症例があれば脳腫瘍・脳血行再建術・ジャネッタ手術なども幅広く行なっている。これらの手術において、顕微鏡下手術ではアシスタントスコープによる術野の観察・水掛・ワタ出しなどの簡単な助手の術操作にも参加してもらう。
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リポート作成時間は ①その週間に経験した後述する行動目標の具体的内容とその関係症例名 ②下記の経験すべき症状、病態、疾患や研修項目の経験優先順位に示された目標症例について当てる。
Ⅱ.研修目標
1.一般目標 ( GIO: General Instructional Objectives )
1)意識障害(一過性を含む)患者の救急医療、初期治療を研修する。
的確な鑑別診断、画像診断等補助的診断のプランニング、初期治療が可能なための研修を行う。
2)脳血管障害患者の救急医療、初期治療を研修する。
救急処置、画像診断、治療計画のプランニングおよびその指示、EBMに基づく手術適応の判断が可能のための研修を行う。
3)頭部外傷患者の救急医療、初期治療を研修する。
2)と同様的確な診断とプライマリケアを研修する。
2.行動目標 ( SBO: Specific Behavior Objectives )
A.経験すべき診察法・検査・手技
(1)基本的脳神経外科診療能力
1)問診及び病歴の記載
患者、家族にたいし礼儀正しく、真摯な気持ちで的確な問診を行い、専門に限られることなく、また、患者の心理状態も考慮しながら総合的且つ全人的にpatient profileをとらえることができるようになる。
病歴の記載は問題解決志向型病歴 ( POMR: Problem Oriented MedicalRecord )を作るように工夫する。
①主訴
②現病歴
③既往歴
④家族歴
2)脳神経外科診察法
脳神経外科診療に必要な診察知識、技能を身につける。
①バイタルサイン
②意識状態の把握
③頭頚部の診察
④神経学的検査
(2)基本的脳神経外科臨床検査
脳神経外科診療に必要な種々の検査を実施あるいは依頼し、結果を評価して患者、家族にわかりやすく説明することが出来る。検査のリスクやそれぞれの病態で禁忌である検査法、避けた方が望ましい検査法であるか否かを十分に理解する。
1)髄液検査
2)神経放射線学的検査
① 単純X線検査
② X線CT検査
③ MRI検査
④ 脳血管造影検査
3)神経生理学的検査
4)神経耳科学、眼科学的検査(耳鼻科、眼科の協力依頼)
(3)基本的治療法
脳神経外科は、脳圧亢進や、脳虚血に対してクリティカルな薬物療法を行うが、それらによる効果の期待できない場合は、速やかに且つ労を厭わず有効な外科的処置を躊躇せず行わなければならない領域である。病態の十分な説明と外科的治療の必要性、そのリスクを含めた十分な説明を、多くの場合患者家族に行い了解を得て外科的な能力を遺憾なく発揮すべき領域である。その為、各疾患の救急救命処置に関するEBMに基づいた外科的処置の適応に関してきちんとした判断が出来なければならない。これは、専門医に荷せられた命題であるが研修医にあっても基本的にはそういった脳外科的精神に基づいて脳外科的治療を習得しなければならない。しかし、一方では絶えず機能的な予後を見通してその十分な説明を家族に私見を抜きにして公正に行うことを誓わなければならならない領域である。脳外科疾患においては重症であるほど患者自身の判断が困難であるため、家族その他の第三者に治療方針が委ねられざるを得ないからである。高齢者については特に愛護的な対応を要する。しかし、知的、精神的能力の推定される能力的予後について人間の尊厳性を保つべき判断を要する。いたずらにメスを乱用してはならない領域である。以上の基本的立場は研修期間中に感じとってもらわなければならない根本的治療概念である。その他の習熟すべき日常業務は他科と同様であるが、下記に示す。
1)処方箋の発行(薬剤選択、薬用量、安全性など)
薬物の作用、副作用、相互作用について理解し、薬物治療(脳圧下降薬、抗てんかん剤、筋緊張亢進や不随意運動に対する薬剤、脳虚血時脳保護薬、脳血栓溶解剤、抗凝血薬、抗血小板薬、抗脳血管攣縮剤、降圧剤と昇圧剤((特に注射薬による))、呼吸促進薬剤、DIC治療薬、脳外科疾患によるストレス潰瘍や急性肺水腫治療薬、主に仮性球麻痺や神経因性膀胱により誘発される感染症に対する抗生剤や抗菌薬、パーキンソン症候群治療薬、脳障害によるせん妄、錯乱不穏、軽症鬱や不眠等に対する薬剤などが脳外科疾患にしばしば見られる薬物療法である。脳外科領域では麻薬の使用の機会は少ない。)が出来る。特に、名年齢、病態に合わせた投薬の問題、治療をする上での制限(相互作用、禁忌、禁忌など)等について学ぶ。
2)注射薬の施行
皮内、皮下、筋肉、静脈、中心静脈(中心静脈についてもカテーテル刺入が可能なよう指導)
3)副作用の評価ならびに対応
4)療養指導
安静度、体位、食事、入浴、リハビリ、排泄、在宅療養時の環境整備、施設入所時療養方針を含む
5)基本的手技
気道確保、人工呼吸、心マッサージ、ドレーン、チューブ類の管理、創部消毒とガーゼ交換、皮膚縫合などが実施できる。
B.経験すべき症状、病態、疾患
研修の最大の目的は、脳神経外科患者(特に脳血管障害と頭部外傷)の呈する症状と身体所見、簡単な検査所見に基づいた鑑別診断、初期治療を的確に行う能力を獲得することである。
(1)頻度の高い症状