研 究

Nisseria meningitidisによる尿道炎の1例

赤羽 貴行1)、村山 範行1)、村田 靖2)、皆川 倫範2)、 小穴 こず枝3)、川上 由行3)
1)安曇野赤十字病院 検査部、2)安曇野赤十字病院 泌尿器科 3)信州大学医学部保健学科 病因病態検査学講座

Keywords:Nisseria meningitidis 、尿道炎、STD 
Ⅰ.はじめに
Nisseria meningitidisはヒトのみに感染し、飛沫感染による伝播が主な感染経路のため、ヒトの鼻咽腔に保菌している場合が多いとされている1)。流行性髄膜炎や敗血症を引き起こす起因菌として知られておりその予後はけして良くない。近年は泌尿器材料や呼吸器材料からの検出例も散見されている2-10)。今回、当院泌尿器科外来の尿道炎患者の尿検体よりN.meningitidisを分離した症例を経験したので報告する。
Ⅱ.症例
21歳、男性。基礎疾患、既往歴では、特記すべき事項なし。2008年3月8日、排尿痛及び尿道口からの排膿を認め、同月10日、当院泌尿器科外来受診。受診の約2週間前、隣市風俗店にて性行為の経験があった。細菌性尿道炎を疑い、マクロライド系抗菌薬であるアジスロマイシン(商品名:ジスロマック)1000mg:1回を受診時に処方される。2週間後に再受診の予定だったが来院はなかった。
Ⅲ.細菌学的検査
泌尿器科外来受診時に、尿の一般検査、培養検査及び尿中Chlamydia trachomatis PCR(外注検査)が依頼された。尿一般検査では白血球数が若干多く(表1)、尿沈査のグラム染色においてグラム陰性双球菌が少数認められた(図1)。尿培養検査では、BTB乳糖寒天培地(日本BD)、血液寒天培地(日本BD)、チョコレート寒天培地(日本BD)、変法サイアー・マーチン培地(日本BD;遠心処理後の尿検体を使用)の4種類の培地を用いて分離培養を行った。24時間培養にてBTB乳糖寒天培地を除く各培地にオキシダーゼ陽性、カタラーゼ陽性のグラム陰性双球菌のコロニーを数個認めた。菌種同定にはVitek 2 NH同定カード(シスメックス・ビオメリュー)及びIDテスト・HN-20ラピッド(日水製薬)を使用し、共に高い同定確率でN.meningitidisとなった(表2)。また、薬剤感受性検査はCLSIに準拠した極東オプトパネル(極東製薬)を使用した。多くの薬剤に感性を示し、治療に使用されたマクロライド系にも感性を示した(表3)。

なお、Slidex meningite-Kit5(シスメックス・ビオメリュー)では各A,B,C群髄膜炎菌感作ラテックスに凝集は示さなかった。また、検出された菌種の血清型においては、数社の外注業者に問い合わせしたところ、いずれも検査の受注はしていなかったため、血清型については未判定であった。また、外来受診時に依頼のあった尿中C. trachomatis PCRは、陰性であった。
Ⅳ.考察
STDにおける泌尿・生殖器材料の細菌検査においては、検出頻度の観点から淋菌やクラミジアを起因菌と疑い、これらの菌の検出を目的とした検査が行われる場合が多く、培養法やPCRの各検査を行っている。しかし、髄液培養や血液培養から本来検出されやすいN.meningitidisが、泌尿・生殖器材料から検出される例が報告されるようになってきた2-6、8-10)。泌尿・生殖器材料の細菌検査においてN.meningitidisを分離する注意点としては、STDの起因菌として頻度の高い淋菌との鑑別が重要である。24時間培養におけるチョコレート寒天培地と血液寒天培地の発育所見においてN.meningitidisは淋菌に比べ、大きなコロニーを形成し、コロニーを突いた感触においても淋菌に比べ柔らかい特徴がある。これらの培養所見に加え同定検査の生化学的性状の違いにより淋菌との違いははっきりしており、両者の鑑別は容易である。 また、今回菌種の血清型においては判定が未実施となったが、本菌種の血清型は地域の流行株の推定や疫学情報には有用であるため1)、可能であれば判定しておく検査である。 当院の本症例のように、近年、泌尿・生殖器材料からのN. meningitidis検出例も都市部を中心に報告されるようになり8-10)、当院のような郊外の病院においても患者が認められたことは、本菌によるSTDが国内全般に拡散していることが考えられる。よって、STDの細菌検査に関しては淋菌やクラミジア同様、起因菌の1つとして本菌の可能性も考慮した検査を行っていく必要性を感じた。

なお、本内容は第45回関東甲信地区医学検査学会(2008.11.15-16・甲府市)にて発表した。
Ⅴ.文献
1) 高橋英之、渡辺治雄:髄膜炎菌.臨床と微生物.vol.28,No.6,pp797-804,近代出版,東京,2001 2)石川恵子:Neisseria meningitidisによる尿道炎の1例.日臨微生物誌.11:132,2001 3)小島宗門、林一誠、佐藤暢ほか:淋菌性尿道炎と同様の臨床像を呈した髄膜炎菌性尿道炎の1例.日性感染症会誌.12:41,2001 4)大楠清文、安田満、大塚喜人ほか:Neisseria meningitidis(髄膜炎菌)Y群よる男子尿道炎の1例.感染症誌.79:797,2005 5)林美佳、安田満、出口隆:髄膜炎菌による男子尿道炎の一例.日性感染症会誌.17:78-81,2006 6)柴野亜希子、一谷祐子、吉田悦子、大武礼文:A群Neisseria meningitidisによる尿道炎の1症例.日臨微生物誌.16:125,2006 7)石田清人、高橋俊司、菅野のぞみ ほか:喀痰より分離されたNeisseria meningitidis.医学検査.56:181-184,2007 8)名古屋洋、樋口元弥、馬場伸男:Neisseria meningitidisによる尿道炎の一例.医学検査.56:430,2007 9)麻生太行、井上克己、太田道也ほか:髄膜炎菌性尿道炎の一例.泌外.20:628,2007 10)塚原みゆき、山本雅枝、川畑大輔、大石毅:当院で経験した髄膜炎菌性尿道炎の6例.日性感染症会誌.18:78-63,2007