研 究

脳血管障害患者における理学療法施行時のCTの活用方法の一考察

―中大脳動脈M1レベル梗塞例から―

安曇野赤十字病院 リハビリテ-ション科
宮嶋 武

【はじめに】
脳血管障害患者の早期の患者に対して、正確な応答を患者自身から得ることは難しい。特に、急性期における意識障害や言語障害を伴う患者に対して言語を介在とした評価を適応させることは、より正確な情報を導き出すことを困難にさせる。しかし、患者の状態を正確に判断し今後獲得できる動作を推測することは、PTを施行する場合において重要なポイントとなる。CTは、病巣から患者の現在の脳の状態を確認することができ、さらに、脳の機能局性から患者の将来獲得できそうな部分の推測をすることができるため患者評価の一つのツールとして重要な役割を担うと考えられる。また、患者と直接な応答がないため、より客観的な判断をすることも可能にする1)。しかし、脳血管障害患者に対して、CTから得られる情報を正確に活用する報告は少なく、上手に活用しているとは考えがたい。 その要因として1)廃用症候群の影響が強く出ていたために、純粋な脳の損傷程度の把握が困難であった2)。2)CTから推測する知識、あるいは、CTを活用する機会が少ないため、患者に対してどの様に適応するか判断基準が確立されていなかった。3)急性期リハビリ(早期起座・起立・歩行)が十分に行なえていない3)。などがあげられる。 今回、CTを評価の1つの道具として考えるため、CTの情報と患者の獲得した能力について検討したので報告する。

【症例】
症例は80歳の女性であり、倒れているところを発見され当院に入院となった。入院当初のGlasgow Coma Scale(以下GCS)は、E4VAM5であった。診断名は、中大脳動脈流域の出血性の脳梗塞であった。(図2から5)合併症として、心房細動を有していた。

 

(PT経過)
出血性梗塞であったため、出血巣の拡大が無いことを確認した後3日目より開始した。  失語症により、指示の入力は困難であったが、GCSがE4VAM5であり、さらに、呼吸状態もよく、熱発も生じていなかったため、端座位より開始した。端座位時の状況は、頭部の挙上も良好であり、ベッド柵につかまると端座位の保持も可能であった。このため、歩行状態の確立までできると判断し、立位練習もベッドサイドで行った。しかし、発症後全身栄養状況が徐々に低下していく傾向であったため、疲労度を観察しながら起立・歩行練習を施行した。3日目のTP 5.3 発症8日目:PT室での練習開始。主にLLB装着した立位練習を施行した。立位練習を施行しても病状の憎悪無く、頭部の挙上も可能であったため、翌日より歩行練習を加える。しかし、TPの改善が生じなかったため、歩行練習は、平行棒1往復程度に制限した。 発症13日目:TPが5.0であったため、PT時のみPT室で行いOTは病室で施行した。PTは、平行棒内起立と歩行はLLB装着し継続。 NST介入により栄養状態改善の経鼻栄養を開始。 発症15日目:LLBをロックした状況下で立位保持が可能になり、さらにロックなしの状態でも立位にすれば立位保持可能になる。また、歩行時、LLBはロックするが、振り出しは軽度介助で可能になる。疲労感も徐々に消失していく傾向を示す。また介助ではあるが食事の摂取がSTにより可能になった。  発症19日目:LLBをロックした状態で平行棒内歩行すること可能になる。その後、SLBに変更させて歩行を行ったところSLBでも歩行が可能であった。言語の状態は、発話は無く、うなずき、首振りであった。(図1-A) 発症22日目:サイドステッパー歩行、SLBを装着して5m程度ならば可能。(図1-B) 発症27日目:平行棒内起立自力で可能。また、4点杖使用して発症54日目:転院 も立位保持が可能であったため、4点杖に杖を変更させて歩行を施行。サイドステッパーよりも杖使用は円滑にできた。 発症28日目:顔の表情が出現する。高頻度後8割程度理解可能。 発症33日目:SLB+4点杖歩行、20m程度監視下で可能。排泄の感覚の出現によりトイレ動作練習開始。ズボンをあげる際に、よろける傾向にあった。(図1-C) 発症36日目:トイレ誘導に対してyesの反応あり。「朧月夜」の歌に対して歌うこと可能。 発症39日目:4点杖+SLB歩行は、45m程度可能になる。 発症43日目:病棟内SLB+4点杖監視歩行可能。 発症53日目:トイレ動作安定し、自分の名前を書くことが可能であった。

【CTより考察】
本症例は、発症1病日のCT図4-AからアーリーCTサインが生じ、広範囲の梗塞が示されているが、2日目のCTで出血が確認でき出血性の梗塞に転じた。このことは、中大脳動脈M1レベルで生じた血管内部の塞栓が移動し再開通が生じたため出血の脳梗塞に転じたと考えられる。再開通前がM1レベルであろうと判断した理由は、図3のCTから被殻が梗塞巣内に含まれており、被殻の動脈支配がレンズ核線条体動脈で、この動脈は、中大脳動脈のM1部分にあるからである4)。また、この再開通によって従来梗塞に侵されたと予測される角回や縁上回の部分4)の梗塞が回避できたと考えられる。本症例は、出血性の脳梗塞であったが梗塞後に生じた出血も梗塞の範囲内に収まり、出血による脳圧亢進状態に陥らなかったため出血の影響はなかったと考えられる。むしろ、再開通によって本来損傷するだろうと予測できる、角回や縁上回部分の梗塞(図6)が免れたと考えられる。また、半卵円中心のCTから、梗塞巣が中前頭回周辺のみであり、頭頂葉に及んでいなかったことから空間の把握に関しての脳機能の局在性が維持されていたと考えられる5)。さらに、半球の内側が損傷されていないことから前大脳動脈の支配領域である(図7)、下肢や体幹の部分の動きを司る中心前回の損傷部位が無かったためである。このような理由から初期端座位時に頭部の挙上が可能であり、端座位姿勢も良好であったと推測される。また、各CTの1病日目から58日病日目までの各CTを比較すると初期時から浮腫が生じているが58病日目には浮腫が収まり損傷の影響がない回や溝が出現している。病巣においても、2病日以降広がりを見せずに縮小していることもみられる。このことから、急性期から起座・起立・歩行練習を施行しても病巣の拡大が無かったことを示している。また、初期状態において起立や下肢が動かなかったのは、図3のCTの2病日目と58病日目を比較することによって、2病日目の脳浮腫によって右大脳脚が圧迫されていることがみられ、この圧迫が下肢の麻痺を誘発させ、初期時の起立や歩行動作を困難にしていた要因のひとつになっていたと考えられる。このことから、麻痺の回復には脳の状態を把握する必要があり、発症初期においては損傷されている以外の要素も加わっていることを考える必要性がある。58日目には、浮腫も減少し圧迫から開放されていることから、脳浮腫からの圧迫の開放が右下肢を動かせ、さらに初期から施行していた歩行や起立の動作獲得に結びついたと考えられる。  以上から、本症例の場合、中心前回上部が残存していたことと認知された情報を集め前頭葉へ送り出す角回部分や空間認知に関する縁上回の部分が残存したことが歩行獲得までできたと要因であると推測され、CTが示す障害像に一致した(図7)。

【まとめ】
脳血管障害患者の予後を決める部分の主要因は、損傷部位であり、損傷された場所は脳の機能局在により、その部所に応じて機能低下を生じさせる。このことは、当然のことであるが、機能局在を確認することがPT評価の中では、あまり主要な位置を占めてはいない。しかし、CTは機能予測するだけではなく、脳の現在の状態を知る情報源となる。今後、CTを確認することで損傷された部位と獲得された能力の適合をさらに行いCTの活用性を確立させていく必要性があると考えられる。

【参考文献】
1) 丸山仁司 他編集:評価から治療手技の選択(中枢神経編)社会生活への適応をどのように援助するか? 文光堂 2006 pp195-206 2) 宮嶋武 他:左側無視における「注意」の障害に対する理学療法 PTジャーナル37:1049-1052,2003 3) 宮嶋武 :脳卒中片麻痺の治療を目的とした装具使用の実際 PTジャーナル40:823-830,2006 4) Peter Duus : 神経局在診断 脳の支配血管 第4版 文光堂 pp379-411 5) Peter Duus : 神経局在診断 大脳皮質における機能局在 第4版 文光堂 pp333-379