研 究

閉塞性動脈硬化症合併透析患者に対するalprostadil注射剤投与の検討 ( Alprostadil製剤の透析膜への吸着性ならびに透析膜での透析性 )

所属,著者名
山田吉広*1 ( ヤマダ ヨシヒロ ) ,須澤大知*2 ( スザワ タイチ ),熊藤公博*1 ( クマフジ マサヒロ ), 袖山孝徳*1 ( ソデヤマ タカノリ ),百瀬光生*3 ( モモセ ミツオ ),床尾万寿雄*4( トコオ マスオ ) 安曇野赤十字病院 臨床工学課*1 ( アズミノセキジュウジビョウイン リンショウコウガクカ ) 同腎臓内科*4 ( ドウ ジンゾウナイカ ),須澤クリニック*2 ( スザワ クリニック ),百瀬医院*3( モモセ イイン ) Key words Alprostadil製剤.薬剤の透析膜への吸着性,透析膜での透析性.先発品と後発品製剤.

【要旨】
高齢化および糖尿病性腎症の増加に伴い閉塞性動脈硬化症 ( arteriosclerosis obliterans 以下ASO ) の発生頻度は増加している.ASOの薬物療法としてalprostadil製剤 ( Palux®,Liple® 以下 先発品製剤 ) があるが,吸着性ならびに透析性についての明記された報告がないため,当院ではASOを合併する血液透析患者に対して透析終了時に投与している.以前我々は,先発品alprostadil製剤のAPS-13SA® ( 以下PS ) 膜への吸着性ならびにPS膜での透析性がないことを報告した.更に今回は,先発品alprostadil製剤 の BG-1.3U® ( 以下PMMA ) 膜,FDX-12GW® ( 以下 PEPA ) 膜への吸着性ならびに各透析膜での透析性について人工透析模擬回路を用いて検討した.また先発品alprostadil製剤と後発品alprostadil製剤 ( Plink® ) の各alprostadil製剤のPS膜への吸着性ならびにPS膜での透析性について上記と同様に検討した.その結果,先発品alprostadil製剤 において,PMMA膜では吸着施行時除去率8%,透析施行時除去率53%,PEPA膜では,吸着施行時除去率5%,透析施行時除去率8%であった.両膜において,透析膜への吸着が認められる結果となり,PMMA膜とPEPA膜による透析時におけるalprostadil製剤の投与方法は,透析終了時が望ましいと考えられた.また先発品と後発品の各alprostadil製剤のPS膜への吸着性ならびにPS膜での透析性は認められず両者に差がなかった.よって,PS膜による透析時における両alprostadil製剤の投与方法は,透析施行中のいずれでも可能と考えられた.
Yoshihiro Yamada*, Taichi Suzawa*2, Masahiro Kumafuji*,Takanori Sodeyama*, Mithuo Momose*3, Masuo Tokoo*4

*1Clinical Engineering Section, *4Kidney Internal Medicine,  Azumino Red Cross Hospital   *2Suzawa Clinic   *3Momose Clinic Study on Alprostadil Injection in Hemodialysis Patients with Arteriosclerosis Obliterans (Adsorption On and Filtration Through a Dialysis Membrane)

[Background] In hemodialysis patients with arteriosclerosis obliterans, alprostadil (Palux®, Liple®) was intravenously administered upon completion of a dialysis session.
[Objectives and Methods] To study the pharmacokinetics of alprostadil during dialysis, we assessed the ability of different dialysis membranes (PS, PMMA, and PEPA membranes) in adsorbing and filtering alprostadil based on absorbance changes using a simulated dialysis circuit.
[Results] While no adsorption and filtration were observed with the PS membrane, the removal rates with PMMA and PEPA membranes with alprostadil adsorbed were 8% and 5%, respectively; and the removal rates with these membranes with alprostadil filtered were 53% and 8%, respectively.
[Discussion] The results indicate that alprostadil can be administered in dialysis patients with arteriosclerosis obliterans using an PS membrane at any time during or after dialysis. In those using either a PMMA or PEPA membrane, however, alprostadil should be administered upon completion of the dialysis session because these membranes adsorb alprostadil.

【緒言】
「 わが国の慢性透析療法の現況 2006年12月31日現在 」1) によると2006年12月現在の血液透析患者数は26万人を超えた.1998年に透析導入患者の原疾患の第1位が慢性糸球体腎炎から糖尿病性腎症に変わり,それ以後も糖尿病性腎症による透析導入患者数は著増し,2006年では42.9%を占めるに至った.四肢切断の頻度は透析患者の全体では2.2%であるのに対して,原疾患が糖尿病性腎症による透析患者では5.3%と高い.また血液透析患者の平均年齢も1996年末の58.6歳から2006年末では66.4歳となり,年々高齢化も進んでいる.このように,糖尿病の増加ならびに高齢化に伴い閉塞性動脈硬化症 ( arteriosclerosis obliterans 以下ASO ) を有する血液透析患者が増加している2).ASOの薬物療法としてprostaglandin製剤があるが,1988年に,prostaglandin E1 ( 以下 PGE1 ) のDDS ( Drug Delivery System :薬物送達システム ) 製剤としてalprostadil注射剤 ( Palux®,Liple® 以下 先発品alprostadil製剤 ) が発売され,広く臨床に用いられている.当院でもASOを合併する血液透析患者に対して,先発品alprostadil製剤を透析施行時に投与している.その際,alprostadil製剤の透析膜への吸着性ならびに透析膜での透析性についての明記された報告がないため,現在は先発品alprostadil製剤 ( 10μg/2ml )を使用し,透析終了時に,5%ブドウ糖液20mlに希釈して透析回路 ( 静脈側アクセスポ-ト ) から15分間かけて注入している.しかし,透析終了時の投与は,患者には透析時間の延長となり,更にスタッフには透析終了時の他の患者の血液回収業務 ( 透析終了業務 ) と重なり作業を煩雑にさせる原因となっている.そこで我々は,人工透析模擬回路 ( 図1 )を使用した検討を行い,先発品alprostadil製剤のAPS-13SA® ( 以下PS ) 膜への吸着性ならびにPS膜での透析性がないことを報告3)した.しかし,PS膜以外の透析膜 ( BG-1.3U® ( 以下PMMA ) 膜,FDX-12GW® ( 以下PEPA ) 膜 ) 等を用いる患者も少なからず存在している.また,2003年には,より低薬価のalprostadil注射剤 ( Plink® ,以下 後発品alprostadil製剤 ) が発売されている.

上記を踏まえて,alprostadil製剤の透析療法施行時の薬物動態を更に調べるため,人工透析模擬回路にて,先発品alprostadil製剤 において,PMMA 膜,PEPA 膜への吸着性ならびに各透析膜での透析性について吸光度変化を利用して検討した.また先発品alprostadil製剤と後発品alprostadil製剤の各alprostadil製剤において,PS膜 への吸着性ならびにPS膜での透析性についても検討した.それらの結果より,透析施行時での alprostadil製剤の投与方法を検討した.

【方法】
先発品alprostadil製剤 のPMMA膜,PEPA膜 への吸着性ならびにPMMA膜,PEPA膜での透析性の差違を検討した.貯留バッグに循環液 ( 5%ブドウ糖液300mlにalprostadil 10μg を混入した溶液 ) を入れて人工透析模擬回路を使用し,開始前,吸着30分時 ( 透析膜へのalprostadil製剤の吸着性の有無を判定するため透析液は流さずに循環を30分施行 ),透析60分時 ( alprostadil製剤の透析性の有無を判定するため,透析液流量500ml/minで透析を60分施行 ), 各測定時における吸光度を各3回ずつ測定した.次に先発品alprostadil製剤 と後発品alprostadil製剤のPS膜への吸着性ならびにPS膜での透析性の差違を上記と同様に,開始前,吸着30分時,透析60分時,各測定時における吸光度を各3回ずつ( 先発alprostadil製剤でのPS膜の検討は6回 ) 測定した. 使用透析膜は表1のごとく3種類の膜であり,詳細はカタログデ-タを参照した.分光光度計 ( 吸光度測定機器 ) はHitachi 105-40 を用い,10mmセルを使用して 最大吸収波長600nmにて吸光度を測定した.透析機器はNIKKISO社のDCS-72を用い,血液循環速度 ( QB ) は 150 ml/min,透析液供給速度 ( QD ) は 500ml/minに設定した.透析液はAKソリタFP® ( 味の素株式会社 ) を使用した.統計はStudent’s – t検定を行い,危険率 p<0.05以上を統計的有意差ありとした.

【結果】 
1) 先発品alprostadil製剤 のPMMA膜,PEPA膜 への吸着性ならびにPMMA膜,PEPA膜での透析性 ( 図2 ) PMMA膜 ( 図左 ) の測定時 ( n = 3 ) の吸光度は開始前0.504±0.009 Abs./cm,吸着30分時0.465±0.006 Abs./cm,透析60分時0.234±0.019 Abs./cmと有意に吸光度が減少していた.吸着30分時のalprostadil製剤除去率は8% ( p<0.001 ),



透析60分時は除去率53% ( p<0.001 )であった.更にPEPA膜 ( 図右 ) の測定時 ( n = 3 ) の吸光度は0.638±0.021Abs./cm,吸着30分時0.602±0.011 Abs./cm,透析60分時0.582±0.023 Abs./cmであり,有意に吸光度が減少していた.吸着30分時の製剤除去率は5% ( p<0.01 ),透析60分時は除去率8% ( p<0.001 ) であった.
2) 先発品と後発品alprostadil製剤 のPS膜への吸着性ならびにPS膜での透析性 ( 図3 )  
先発品alprostadil製剤 ( 図左 ) の測定時 ( n = 6 ) の吸光度は開始前0.634±0.029 Abs./cm ( mean±SD ),吸着30分時0.649±0.023 Abs./cm,透析60分時0.669±0.029 Abs./cmで,後発品alprostadil製剤 ( 図右 ) の測定時 ( n = 3 ) の吸光度は開始前0.653±0.015 Abs./cm,吸着30分時0.643±0.012 Abs./cm,透析60分時0.641±0.025 Abs./cmであり,両製剤は開始前,吸着30分時,透析60分時ともPS膜において吸光度に有意な差が認められないことにより,両alprostadil製剤ともPS膜への吸着性ならびにPS膜での透析性はないと考えられた.

【考察】
PGE1 は,容量依存性に血流増加ならびに血小板抑制作用を持っているが,肺での不活性化が多いため点滴静注療法では大量投与が必要とされており,副作用も多いとされている4).そこで1988年に,脂溶性のPGE1を脂肪乳剤の微粒子 ( Lipid Microsphere以下 LM ) 内に含有させ,周りはレシチンで覆われている先発品alprostadil製剤が発売された.この製剤開発により,従来のPGE1の1/4~1/6の量で同等な臨床効果が得られ,副作用も軽減した.生体での薬物動態としては,TDM ( Therapeutic Drug Monitoring ) の対象とならず,透析患者への投与方法では,減量の必要はないとされている5).
我々は,以前,先発品alprostadil製剤のPS膜への吸着性ならびにPS膜での透析性がないことを報告したが,今回は,先発品alprostadil製剤においてPMMA膜及びPEPA膜への吸着性ならびにPMMA膜及びPEPA膜透析性について検討した.
まずPMMA膜では,吸着30分時のalprostadil製剤除去率が8%,透析60分時では53%と吸光度は有意に減少した.PMMA膜はアイソタクテックポリメチルメタクリレ-トとシンジオタクテックポリメチルメタクリレ-トのステレオコンプレックスからなる膜で,疎水性の強いポリメチルメタクリレ-トに親水性を持たせた透析膜6)である.膜厚が30μmと薄く,膜孔径は半径60Åとされている.また,吸着能の最適化をはかるため内表面 ( 血液側 ) の膜開孔率を高く設定し,膜表面は凸凹の激しい疎面構造にすることにより吸着能を有している7).吸着30分時においては,このようなPMMA膜の特有な構造によりalprostadil製剤が吸着されたものと考えられる.また,透析60分時のalprostadil製剤の吸光度減少は,透析液の灌流によりalprostadil製剤のPMMA膜への吸着量が増加したためと推測している ( 今回の我々の実験では透析液中にalprostadil製剤が透析により除去されたとの実験デ-タを算出していないためalprostadil製剤の透析性は不明である ).
次にPEPA膜では,吸着30分時のalprostadil除去率が5%,透析60分時では8%と吸光度は有意に減少していた.PEPA膜はポリアリレ-トとポリエ-テルスルホンをブレンドしてアロイ化した高分子多成分系の透析膜 ( FLX膜® )であり,膜孔径等の公称値は公表されていないが,内表面 ( 血液側 ) に緻密層を持ち,膜内部に多孔質層,外表面 ( 透析液側 ) に緻密層を有した非対称透析膜である.また,透析液中のエンドトキシンを緻密層にて捕捉するというエンドトキシン阻止能を有している6).今回我々の使用したPEPA ( FDX-12GW® ) 膜はFLX®膜にポリビニルピロリドン ( 以下PVP ) を添加して親水化し,抗残血性と小分子部質除去性能を向上させた透析膜であり,両膜とも基本的には同一膜構造を有し,β2ミクログロブリンの若干の膜付着が存在するといわれている8).以上のことを考え合わせるとalprostadil製剤の吸着性が認められることも理解できる.更にPMMA膜と同様に,透析60分後のalprostadil製剤の吸光度減少は透析液の灌流によりalprostadil製剤のPEPA膜への吸着量増加のためと考えている ( PMMA膜と同様にalprostadil製剤の透析性は不明である ) .
次に,先発品と後発品alprostadil製剤のPS膜への吸着性ならびにPS膜での透析性を検討した.両製剤はともに分子量は354.48であり,主成分であるalprostadilは同じであるが,先発品alprostadil製剤の脂肪成分は大豆油,後発品alprostadil製剤の脂肪成分はオリーブ油になっていることが大きな違いである ( 後発品alprostadil製剤の平均粒子径等のその他の詳細デ-タ-はインタビュ-フォ-ムには記載されていないため不明 ) .人工透析模擬回路による実験の結果,両alprostadil製剤ともPS膜への吸着性ならびにPS膜での透析性は認められなかった.よって,両alprostadil製剤は透析施行時の投与方法においては同等と考えられた.PS膜は疎水性の芳香族ポリスルホンにPVPを加え,膜表面の親水化状態を最適化し,血小板等の膜表面への吸着を抑制しているなどの優れた生体適合性,高い溶質除去性能を有しているといわれている.膜孔径は80Å,膜厚が45μm と厚く,内表面 ( 血液側 ) に緻密層 ( 膜開孔率を低くおさえることにより吸着性を低下させている ) を設け,外表面 ( 透析液側 ) に向かって連続的大孔径構造を有している非対称膜である ( カタログデ-タより ) .Alprostadil製剤のPS膜への吸着性ならびにPS膜での透析性が認められないのは,こうした膜構造の特徴が影響していると考えられる.
ただ,五十嵐は,先発品 と後発品alprostadil製剤 において,粒子径や粒子陰性電位には大きな違いはなかったが,LM中のalprostadilの割合が,先発品alprostadil製剤 は65%であるのに対して後発品alprostadil製剤は44%または38%と含有量に差があった8)と報告している.両製剤 において薬理効果に差がある可能性も考えられ,臨床に使用する際に留意する必要がある.
今回,我々は前述の通り,PMMA膜 ,PEPA膜において,人工透析模擬回路使用でのalprostadil製剤の透析膜への吸着の事実を提示した.Alprostadil製剤の3種類の透析膜への吸着が異なる原因は,膜の高次構造( 素材,立体構造,親水性と疎水性,表面構造など )の違いによるものと考えられ,alprostadil製剤の投与時には,使用透析膜の特性を考慮して使用しなければいけない.
すなわち,人工透析模擬回路 ( 水溶液系実験 ) においてPMMA膜,PEPA膜ではalprostadil製剤の吸着が認められることより,臨床の現場 ( 血液系 ) にてalprostadil製剤の透析膜への吸着が否定できない以上,投与時期については現状どおりの透析終了時が望ましいと考えられた.一方,PS膜においてalprostadil製剤投与は透析終了時にとらわれず,透析施行中のいずれでも可能と考えられた.

【まとめ】
1) 先発品alprostadil製剤において PMMA膜,PEPA膜では透析膜への吸着が認められ,投与時期については透析終了時が望ましい.
2) 先発品と後発品の各alprostadil製剤ではalprostadilのPS膜への吸着性ならびにPS膜での透析性について差がなかった.よってalprostadil製剤投与は透析終了時にとらわれず,透析施行中のいずれでも可能と考えられた.

【参考文献】
1) 日本透析医学会統計調査委員会:わが国の慢性透析療法の現況(2006年12月31日現在) .日本透析医学会,東京,2006,
2) 佐中孜:透析患者と閉塞性動脈硬化症 ( ASO ). Pharma Medical21 :123-128,2003
3) 山田吉広,須澤大知,熊藤公博,袖山孝徳,百瀬光生,床尾万寿雄:血液透析患者におけるアルプロスタジル注射剤,投与方法の検討.臨床透析23 : 763-768, 2007
4) 水口和生,寺島和彦,九次米敏秀 :リポPGE1製剤の安定性とLipid microsphereからのPGE1の遊離.基礎と臨床 26 : 1647-1652,1992
5) 平田純生,岸本武利:透析患者への投薬ガイドブック.株式会社じほう,東京,2003
6)中本雅彦,佐中孜,秋澤忠男:血液浄化膜の構造と特徴,透析療法事典,p45-50,医学書院,東京 1999
7) 菅谷博之,上野良之,山田智子,板垣一郎:ハイパフォ-マンスメンブレンの構造と機能.腎と透析,別冊:19-23 ,2006
8) 五十嵐理慧 :薬物送達システム ( DDS ) の現状と展望.Angiology Frontier 6 :190-194, 2007

日本透析医学会雑誌(1340-34581) 41巻5号
Page 323-328 (2008年5月)