医局だより  【最新医学】病気について

冬期に多い大腿部頚部骨折に注意   整形外科医師 赤津 昇

 大腿骨頚部骨折は高齢者に多いあしの付け根の骨折です。この骨折は骨粗鬆症(骨量減少)を基盤として生じ、全国の年間発生数は約九万人と推測されています。大腿骨頚部骨折は寝たきりの原因として社会的に注目されていると同時に人口構成が高齢化するのにともないさらなる増加が懸念されています。今後二〇年間に二.五倍に増加するともいわれています。

 日本整形外科学会では本骨折の現状を把握し治療法の確立と予防手段を講じるため、平成十年より大腿骨頚部骨折の全国調査を行っています。特に本骨折の治療に造詣の深い全国一五八施設が定点観測施設に選定され、当院もその一施設(長野県では二施設)として調査を行っています。この調査によると受傷年齢は平均七九才、女性が七八%、冬季発生が多く、受傷場所は七〇%が屋内、原因の七〇%は立った高さからの転倒により発生しています。

 大腿骨頚部骨折の治療は高齢者であってもできるだけ早期に手術した方がよいと考えられています。ご高齢の方に手術を行うことはもちろん危険性をともなうことですが、長期間高齢者を臥床させることは、骨折が治っても歩けなくなってしまうばかりではなく、かえって肺炎や床ずれ、痴呆症状出現などの全身合併症発生の危険性を高めてしまいます。したがって、痛みの軽減と早期離床を可能とし、臥床にともなう合併症の発生予防のため手術療法が選択されます。全国調査でも九四%の方に手術が行われています。

 大腿骨頚部骨折は骨折の部位により二つに分類されます。股関節の中で骨折する内側骨折と股関節の外で骨折する外側骨折に分けられます。関節の中で骨折が生じると、骨癒合に必要な骨膜がなく、骨折部に関節液が介在してしまうため骨がつきにくい特徴があります。したがって手術方法は骨がつきやすい外側骨折と、内側骨折でも骨折のズレが少ない場合は骨接合術(骨折を金属により内固定する手術)を行いますが、内側骨折で骨折のズレが大きい場合は人工骨頭置換術(骨折した部分を人工物で置き換える手術)を行います。当院でも平成一四年の一年間で骨接合術を五七名に、人工骨頭置換術を三〇名に行いました。

 手術を行った場合は、術後二日目ぐらいから座位や車イス移動を、一週目より歩行訓練を開始しています。これまで一般病床(急性期病床)のみであった当院では術後一ヶ月程度のリハビリ期間しかとれず、順調に経過する方でも退院時に十分な歩行能力を獲得することは困難でした。しかし平成一五年九月に当院の中に回復期リハビリテーション病棟が開設されたため、術後二~三ヶ月程度のリハビリテーションが行えるようになり、今まで以上の機能改善が期待できるようになりました。

 しかし本骨折はご高齢の方が多いためその予後は決してよいとはいえません。定点観測施設の調査によると、平均二ヶ月の入院で自宅退院は五〇%に過ぎず、機能予後はほぼ骨折前の状態にもどった方は退院時で五六%、一年後では三九%に低下していました。生命予後も受傷後年時には手術した方の一〇%が、手術しなかった方の三〇%が亡くなられていたという結果でした。

 以上のように大腿骨頚部骨折は骨量の減少した高齢者が屋内で転倒して生じることが多く、骨折した場合は手術を必要とする重篤な骨折であり、その予後は決して楽観できるものではありません。したがって何よりも本骨折を予防すること、すなわち骨量の維持と転倒の防止が重要であると考えます。骨量の維持には日光浴、適度な運動、バランスのよい食事などが重要であり、骨粗鬆症の診断基準をみだす方は適切な薬物療法をおすすめします。まだ自宅での転倒防止のため、床の段差をなくしたり、手すりをつけたり、夜間歩行時の照明を確保するなどの配慮も必要と考えます。