医局だより  【最新医学】病気について

重症急性呼吸器症候群(SARS)について  内科医師 平山 二郎

 SARSは二〇〇二年十一月以降、中国を中心に世界各地で集団感染と死亡者の発生している非定型肺炎(普通の細菌による肺炎とは症状、胸部X線写真、効く抗菌薬の異なるもの)を特徴とする感染症であり、コロナウイルス科のSARS関連コロナウイルスが病因です。拡散の経緯は次のとおりです。世界保健機構(WHO)は二〇〇三年二月一四日、中国・広東省の衛生官が二〇〇二年十一月一六日から二〇〇三年二月九日までに急性呼吸器症候群が三〇五例、死亡五例発症したと報告したことを発表しました。香港のあるホテルに二月二一日に宿泊した広東省からの旅行者が急性呼吸器症候群を発病して二二日に入院し、そのとき同宿していた旅行者などが、ベトナム、カナダ、シンガポール、米国、アイルランドに移動後発病、あるいは発病後移動しました。その後、香港及びこれらの国々でこれらの患者をケアした医療従事者と家族など近接者における集団感染が連続して発生しました。

WHOハノイ事務所のドクターから報告を受けたWHOは、三月一二日ベトナムと香港における非定型肺炎を特徴とする急性呼吸器症候群について世界的な警告を発表し、三月一五日にはSARS伝播地域の指定を行い、異例の緊急旅行勧告を出しました。その中でSARSの定義を示しましたが、この時点では「原因不明、抗生物質が効かない、死亡者が出ている、医療関係者を中心に罹患している、他国へ拡がっている」という緊急事態でした。

その後まもなく、WHOは中国本土における非定型肺炎もSARSであると正式に判断しました。香港においては、集合住宅においてSARSの集団感染が発生し、病院や家族を中心とする感染伝播に留まらず市中での感染の拡散も注目されるようになりましに。また、中国本土における感染の更なる拡散も報告されました。四月二日WHOより他国への感染拡大の防止のため、香港、広東省への渡航延期勧告がなされました。日本では四月三日、感染症法の一類感染症(エボラ出血熱など)として扱われるようになり、厚生労働省を中心に県衛生部、保健所、医師会、基幹病院の協力のもと感染防御体制が検討されてきました。五月には中国本土、台湾において市中感染を含む集団感染ぴ拡大していましたが、その他の地域では比較的限定された範囲に終息しつつあり、伝播地域指定の解除が相次ぎました。六月に入ると中国、台湾でも新しい患者は発生が少なくなりほぼ制圧されてきました。

七月三日の時点で世界で八、四三九名のSARS症例がWHOに報告されており、死亡者も八一二名を数えます。七日五日台湾の伝播地域指定が解除され、SARSの流行は終息しだかに見えます。しかし、SARSには依然として不明な点も多く、今年の秋から冬にかけての再流行が懸念されています。SARSの主な症状は三八度を超える発熱、疲労感、悪寒、頭痛、筋肉痛、乾性咳、息切れ、咽頭痛などでインフルエンザに類似しています。潜伏期間は二日~十日で、感染経路は気道分泌物による飛沫感染が主体と考えられていますが、気道分泌物あるいは糞便などの経口経路による直接・間接の接触感染の可能性もあります。したがって、一般的な予防策はマスクの着用と手洗いの励行となります。SARSのワクチンの製造にはまだ時間がかかる様です。今後のSARSの動向に注目しましょう。