災害時傷病者受け入れ訓練を終えて

 医療救護委員会長 小児科医師 天野 芳郎

『平成17年7月23日、午前8時OO分、震度7直下型地震発生 建物倒壊などにより多数の傷病者が発生』多数の傷病者が当院に訪れる事を想定し、災害時傷病者受け入れ訓練を実施しました。
休日の訓練に80名を超える病院職員が自主的に参加しました。

 昨年から新潟県中越地震やスマトラ沖の津波災害が立て続けに起こりました。最近ではJR西日本の脱線事故やロンドン地下鉄でのテロが起こり、マスコミで大きく報道されました。災害はいつやってくるかわかりません。すこしでも自分の身を守るには、災害はいつでも起こりうることを銘記し、日ごろから防災の意識を持つことが大切でしょう。では、災害が起こり多くの患者さんが発生した時、病院はどう対応すればよいのでしょうか。豊科目赤は、以前から救急医療に積極的に取り組んでいますが、日常の救急医療と災害時医療は少し考え方が異なります。救急医療では、病院に来たどんな患者さんにも、すぐに、できる限りの治療をおこなうのが大原則です。しかし、災害時医療では少ない医療資源でできるだけ多くの被災者を救うことが重要で、治療すれば助かる可能性が高い患者さんの治療が、その可能性の低い重症患者さんの治療に優先することもあります。被災地の病院には、多くの被災者が病院に殺到した時、如何に公平に最大限の力を発揮できるかが問われるのです。

 日本赤十字社では、毎年各地方の支部が主催して災害救護訓練を行っており、豊科日赤も時々訓練に参加しています。しかし、多数の傷病者が来院した際の受け入れ方を豊科日赤の現状に合わせて考えておく必要があります。実際、先の中越地震の際に、震源地に近い長岡日赤では地震の1週間ほど前に患者受け入れ訓練を実施していて、災害時の受け入れが大変スムーズに行えたそうです。豊科日赤では多数傷病者受け入れ訓練を平成15年に初めて行い、病院の受け入れ能力を検討し、受け入れる際の手順を確認しました。それを踏まえて、今年度の2回目の訓練では、より現実に近い訓練を行い、職員の防災意識を高め、多数の傷病者を受け入れる際の問題点を洗い出すことが目標となりました。

 今回の訓練をどのように企画したかを述べてみます。参考にしたのは、平成9年に長野赤十字病院で行われた災害救護訓練です。この時は、長野で地震が起こり長野赤十字病院へ多数の傷病者が運び込まれるという想定でした。今回の想定も、安曇野地域に強い地震が起こり、豊科日赤に多<の傷病者が来院するというものとしました。どうすれば実のある訓練になるかということを考え、まず、院長、看護師長が参加可能な土曜日の午前中(7目23日)を訓練日と決めました。これは病院のトップが参加することによって、訓練参加者の士気を高めることができると考えたためでした。

準備期間は2ヶ目間とりました。次に、訓練内容を決めました。朝8時に集合、9時から1時間の受け入れ訓練を行い、その後反省会をして、12時までには解散するというものです。模擬患者さんは全部で20人、そのうち軽症8人、中等症5人、重症6人、死亡1人としました。9時から40分間にその20人が次々と来院します。ここで、大雑把にいうと、軽症者は歩行可能な人、中等症者は数時間以内に治療しないと危険で入院が必要な人、重症者はすぐに治療しないと危険な人、死亡の1人は病院に到着時にすでに死亡している人です。訓練時間は1時間ですが、この間に20人をまずトリアージ(傷病者を治療の緊急度に分けて選別すること)します。次に軽症・中等症・重症の治療エリアに搬送し、適切な検査・治療し入院させます。本部・事務では病室や手術室の手配を行い、治療・入院した傷病者の詳細を把握し広報しなければなりません。薬剤部、検査室、放射線部は緊急時に対応した機動力を発揮して役割を果たすことが必要です。一般の方は、医療者なら誰でもけが人を診療できると考えるかもしれませんが、内科医や小児科医は外傷の処置には不慣れで、自信がありません。また、地震災害にはそれ特有の傷病が発生し、スタッフ全員がその病態を知っていなければ、正しい診療は行えません。そのため、今回の訓練では、模擬患者の受傷機転、症状、所見、重症度、診察方法、検査項目、検査結果、治療方法などをすべてあらかじめ決めておき、参加するスタッフ全員がよく理解したうえで訓練に望んでもらおうと考えました。模擬患者が入ってくる順番も決めておきました。治療エリアのスタッフは「次に入ってくるのは○○という外傷だ。

診療方法、治療方法は△△で、入院が必要だ」ということを頭にたたき込んで、訓練に望むのです。これでは、一見訓練にならない様に思えるでしょうが、それでも意外に難しいものです。いい加減な診断・治療ではなく、素早く正しい診療ができるためには、この訓練が完壁にこなせる必要があります。一方、模擬患者役のスタッフには、自分の演技する病態を良く理解し、それに合った演技をお願いしました。自分の受けた対応や治療が適切であったかどうを判断できるくらいに病態について理解していると、もし現実にそのような患者さんが来られた時に素早く適切な対応ができるものと考えました。

当日の訓練は緊張感がありました。模擬患者のスタッフは迫真の演技を行い、治療者は大きな声で診察・治療を行いました。患者搬送役は素早く模擬患者を搬送し、薬剤部、検査部、放射線部も的確にその役割を果たしました。本部では、院長、副院長、看護師長が患者情報を素早くまとめました。訓練終了後の反省会では、参加スタッフの達成感・満足感が感じられました。
その後のアンケートの結果から、参加した多くのスタッフは訓練が意義のあるものと考えてくれました。また、たくさんの傷病者を受け入れる際の問題点も、実際の動きを通して浮かび上がってきました。現実に災害が起こったときに、訓練の成果が本当に発揮されるためには、今回のような努力を続け、様々な問題点を少しずつ解決してゆくことが必要だと考えられます。