医局だより ―病気について―

生活習慣病と喫煙、飲酒について   神経内科医師 中野 武

 皆さんお元気ですか。
 近年、生活習慣病ということがよく言われています。皆さんもお聞きになったことがおありと思います。これまで、三大成人病として脳卒中、心臓病、悪性新生物(癌、肉腫)が上げられてきましだ。この三者は今も日本人の死因の上位を占めており、重要な病気です。そして、これら病気は見かけ上は突然発症しますが、実は決してある日突然になる訳ではないのです。その前の状態として高血圧、高脂血症(高コレステロール血症や高トリグリセリド血症)、糖尿病などの慢性疾患がある場合が大半です。これらの病気には食事の偏り、運動不足、肥満、喫煙、飲酒などの長年の生活習慣が、深く関与することが知られております。そこで、まとめて生活習慣病と呼ぶようになったのです。三大成人病およびその引金となる高血圧、高脂血症、糖尿病などの予防のため、若い時期からの生活習慣の適正化か必要なのです。日々の健康のため古今東西いろいろな養生訓が語られてきました。貝原益軒の養生訓など有名ですね。西洋ではブレスローの健康七原則が有名です。これは十分な睡眠を取ること、たばこを吸わないこと、体重を適正にすること、お酒は程々に、汗をかく程の十分な運動をすること、朝ご飯をきちんととること、間食しないことを上げ、健康の秘訣としております。確かにこれは真実だと思います。これに加えて厚生労働省も新しい21世紀に向けた国民の健康の指針を発表しております。 「健康日本21」と呼ばれるものです。大きな柱は禁煙、飲酒の制限、食塩摂取の減少、運動の励行、心の健康、歯の健康など多岐にわたって、きめ細やかに健康維持、増進のための勧告をしています。機会があればご一読ください。厚生労働省のホームページでも読むことができます。
 さて、健康維持、増進について重要と思われることの中で、喫煙と飲酒につい今回述べたいと思います。 まずは喫煙についてです。だばこは「百害あって一利なし」というのが医学の定説です。肺癌との因果関係については多くの証拠(エビデンス)があります。脳梗塞や高血圧、動脈硬化の悪化との因果関係も立証されています。仕事を終えての一服かストレスの解消に有益であることは確かです。しかし、愛煙家には大変酷なことですが、 「自分は癌になってもよいから」などという自己責任では済まない状況のようです。周囲の方が吸入することとなる副流煙の発癌性の高さは有名です。また、環境(地球環境のみならず家庭、職場といった身近な環境)に残留するタールの害や一緒に暮らされるご家族や子供さんへの影響は看過できないものがあります。職場などでは現場のみならず休憩場所についても完全な分煙化が最低限必要です。近年、禁煙のための薬剤も容易に使えるようになりました。医師にご相談ください。
 次に、飲酒についてです。昔から酒は「百薬の長」と呼ばれています。しかし、一方「命を削るカンナ」とも言われます。煙草と違い健康への利益がある反面、度を超す飲酒は健康に害となります。過度の飲酒は肝臓障害のみでなく高血圧、糖尿病、肥満の原因となりますし、肝臓以外でも癌の危険性、リスクを高めます。適度な飲酒(晩酌や宴席)は脳梗塞の危険を減らす一方、大酒飲みの方では逆に危険性は上昇します。また、最近ではアルコール依存症も精神科領域で大きな問題となっています。アルコール依存症や慢性アルコール中毒症は、何も性格が弱く飲酒の誘惑に負けてしまう人間だけがなる病気ではありません。およそすべての成人国民が成り得る危険性があります。特に女性は男性に比べ容易かつ短期間で、アルコール依存症になることが指摘されています。では、どの位の飲酒が適正なのでしょうか。厚生労働省の専門家の推定では、純アルコールとして一日に20グラムとされています。具体的にはビールなら中ビン一本、ワインはグラス一杯、日本酒では1合が24グラム位あって0.5~0.7合位が適量といいます。何か少し物足りませんが健康のためです。そして週に2回は休肝日として飲酒しない日を作るべきです。
 赤ワインの健康効果はマスコミでも有名になりました。これは日々脂肪分の多い食事(あの美しいフランス料理ですから)を食べているフランス国民が、周辺ヨーロッパ諸国に比べ脳卒中、心筋梗塞などの疾患が、少ないことから言われたことです。この予想に反する事実(フレンチパラドックス)の説明として、フランス人が毎日飲む赤ワインが注目されたのです。赤ワインに含まれるポリフェノールという物質の働き(抗酸化作用)で動脈硬化の進行が予防されるということです。いくら健康に良いと言っても飲み過ぎればやはり「命を削るカンナ」となります。くれぐれもご注意下さい。
 今回は喫煙と飲酒について述べさせていただきました。今一度普段の生活について振り返り、喫煙や過度の飲酒などの生活習慣について是正していくことが肝要です。そして人間ドックや健康診断を病気の発見のみならず、生活習慣の歪みの発見、是正の契機としていだだければ幸いです。