◎特集2 災害時のトリアージについて    脳神経外科 上條 幸弘


脳神経外科 上條 幸弘

昨年は戦後未曽有の東日本大震災発災を経験し、当院も救護班や救護要員を被災地に派遣しました。今回の甚大災害では、これまでの災害時以上に医療需要がきわめて高く医療資源が乏しかったため需要供給の不均衡が際立っており、継続した医療支援が必要でした。

災害医療の目的は、肉体的・精神的後遺症を最小限にすることで、そのための原則として、限られた医療資源で最大多数に最善を尽くす、救命の可能性の高い傷病者を優先する、災害時要支援者を優先する、軽症者を除外するなどが挙げられます。災害時の医療活動の手順として、triage(患者選別)、treatment(応急処置)、transportation(搬送)の3T’sがあります。ここでは、トリアージについて概説したいと思います。

トリアージとは、災害医療の目的達成のために、被災者の重症度と治療の緊急度(あるいは搬送優先度)を判定することで、トリアージの原則は1)生命は四肢に優先し四肢は機能に優先し機能は美容に優先する、2)限られた医療資源で単純な手技を用い短時間で最大多数の被災者を救う、3)手のかかる瀕死の重症者を潔く諦めて軽症者を除外する、ことです。

図1

平常時の医療では各個人に医療資源や時間を十分にかけて少しでも良い結果を得ようとしますが、災害時にはすべての人にこのような医療ができません。1人でも多くの人を助けたいのですが、全ての人を助けることはできないのです。
 トリアージの際は、視覚・聴覚など五感、臨床経験が重要です。トリアージは災害現場、現場救護所、病院入口等で行い結果をタグ(図1)に記載します。

トリアージが終るまでは救護所や病院内に入れず治療はトリアージ後に行います。できれば複数で行い気道障害の際の体位変換と外出血に対する圧迫止血以外の処置・治療は行いません。トリアージ分類はわかりやすく色や数字で表します。最優先治療群(1:赤)は生命や四肢が危機的な状態でただちに処置が必要なもの、待機的治療群(2:黄)は2~3時間処置を遅らせても悪化しない程度のもの、保留群(3:緑)は軽症外傷で通院加療が可能程度のもの、死亡群(0または4:黒)は生命徴候がないもので死亡または明らかに生存の可能性のないものです。

図2

トリアージの方法で、災害現場や医療資源に対し傷病者数が非常に多いときに行う1次トリアージとして、スタート(START:Simple AndRapid Treatment)法があります。災害現場で早期に傷病者を安全な場所に移し、2次災害などの危険から傷病者や救援者を守る意味もあります。歩行できるものは(緑)で、歩行ができない場合、呼吸や血圧、意識状態で判断します(図2)。
2次トリアージは救護所や病院前などで医療資源に多少余裕のある時に行い、先の呼吸、血圧、意識状態に加え外傷の種類によっても判断します。

さらに受傷機転や災害時要支援者である幼少児、高齢者、妊婦、障害者、慢性基礎疾患のあるものや旅行者などは優先度が高くなる可能性があります。実際のトリアージは、負傷者の数や重症度あるいは病院の診療能力によって変更される場合もあり、周囲の医療機関の置かれている状況を十分に把握し、これまで述べた原則に従って行う必要があります。

トリアージの問題点として、法的な権限の付与がなされているわけではないトリアージ担当者の権限を容認できるか、トリアージ担当者は原則的に気道障害に対する用手的気道確保と外出血に対する圧迫止血以外の治療は行わないが緊急処置をせずにトリアージに専念することを容認できるか、人の生死に強く関与せざるを得ないトリアージ担当者のストレスに対するこころのケアの必要性、トリアージは必ずしも正確に行えない場合もあること、黒タグの問題(救急現場での早期治療の否定やその後の死体検案、死体安置、家族へのグリーフケアなど)などがあります。トリアージの概念について一般市民方々の理解や協力も必要であり、トリアージ担当者の育成とともに、一般市民の方々へ広める機会を災害シミュレーションや病院祭などで持ちたいと思います。