◎特集  胃瘻(いろう)・PEGについて   消化器内科 望月 太郎

全身状態は良いにもかかわらず、様々な理由で食事が摂取できない方がいらっしゃいます。
理由として、飲み込む動作がうまく連動しない嚥下障害(これは脳梗塞や認知症等が原因で、食べ物が気道に入る誤嚥から肺炎を起こしやすくなります)や、うまく飲み込めるが、その先の食道が狭いために物理的に食事が通らない 食道狭窄(これは 炎症や悪性腫瘍等が原因です)などがあります。

これらの食事が摂取できない患者さんに、栄養補給する方法は、大きく2つに分類され、点滴で補う経静脈栄養法と、腸管から吸収させる経腸栄養法(経管栄養法)があります。
後者の経腸栄養法のなかには、鼻から胃まで通すチューブで栄養剤を送る 経鼻胃管法 や おなかの表面から胃内に貫いて作った短いトンネルにチューブで栄養剤を送る胃瘻造設法などがあります。
胃瘻のなかでも、内視鏡(胃カメラ)によって行う経皮内視鏡的胃瘻造設術( Percutaneous Endoscopic Gastrostomy 以下PEG=ペグと略します)は、開腹手術による胃瘻作成に比べ、身体的負担も少ないため、食事摂取不能な患者さんに、近年多く用いられている長期栄養管理法です。(※1
消化器内科では、このPEG造設の希望が得られた際に、PEG造設処置を行っています。

 

胃瘻のメリットとデメリット

身体的負担が比較的少なく、誤嚥による肺炎も少なくなり、栄養状態が改善することもよく見られるなど、メリットも多く、不要となれば抜去可能なPEGですが、デメリットもあります。

体力の低下した患者さんに作ることもしばしばあり、造設直後、まれに死亡に至ることも見られます。(2011年3月特定非営利活動法人PEGドクターズネットワーク調査報告書によると全体の胃瘻造設例の0.6%・死亡例の1.6%)

また、PEGは決して万能ではなく造設後に解決すべき課題もあります。

❶施設入所の場合、栄養剤の接続・注入は看護師が行う必要があり、入所者の数も制限される。つまり、PEGを作っても退院後の受け入れ先がなかなか決まらない場合もある。
❷口腔内ケアを行わないと不潔になり、よだれによる皮膚のただれや肺炎の発生
❸PEGの自己抜去防止のため、ミトン手袋などで制限することもある。
❹チューブ交換は医療機関に行かないと事実上できない
❺下痢や食道逆流予防のために注入に時間をかけると、床ずれができやすくなる
❻退院後の抜去・出血・不良肉芽・埋没・感染症などのトラブルこれらの点は、胃瘻造設前には十分イメージがしづらいこともありますので、ご留意下さい。

これらをふまえたうえで、あらためてPEGは人工栄養の中ではデメリットの比較的少ない方法でもありますが、PEGが果たして本当に生活の質や生命予後の延長に寄与するのか国により結論が違うという問題もあります。欧米の報告では、認知症患者にPEGを造設しても、生命予後に貢献しないとするものが多く、一方で、日本では、生活の質や生命予後を明らかに改善していると報告されています。この違いの原因はまだ分かっていませんが、胃食道逆流症による肺炎の頻度や医療介護体制の違い、身体観・宗教観のためかもしれません。

 

胃瘻=延命治療?

胃ろうが「望まない延命につながるのではないか」として、拒否感を持つ高齢者らが急速に増えているそうです(2011/1/18)中日新聞 胃ろうを作りますか?(3)広がる拒否感、2010/7/25 NHK ETV特集「食べなくても生きられる ~胃ろうの功と罪~」。(※2
食べられなくなれば、生物として寿命をまっとうしたことになるという考え方も一面では理解できます。
しかし、一方で、PEGにすることで最後まで良い栄養状態で寿命を迎えられたり、経口摂取可能な状態になりPEGがいらなくなる方さえおられます。したがって、PEGを単なる延命処置ととらえるのは医療側としては短絡的な印象をもちます。管をつながれるという違和感から、PEGに反対されるのであれば、経鼻栄養も同様であり、PEG以上に苦痛をあたえ、自己抜去も多いことから身体拘束も多いとされています。

問題は、PEGの是非の問題ではなく、人工栄養を拒否するかであり、死に方の自己決定権(尊厳死/リビングウィル)の問題といえます。(※3
人工栄養を拒否するのであれば、おなじ人工栄養である静脈栄養も最小限の水分・電解質のみとすべきです。(これによる苦痛は生じないとされます。終末期の患者においては、喉の渇きや空腹に苦しんではおらず、栄養投与を減量・中断することに苦痛を感じていないということが複数報告されています。)

PEGだけを延命行為と捕らえることと、尊厳死の問題とは論点が異なると感じていますがいかがでしょうか?
蛇足ながら、PEGの造設が社会的な事情で「退院」の要件となること、人手を節約するために行われることなど、介護、医療者側の都合でPEGを造設することはあってはならないと考えます。患者の生活の質を改善し、安楽をはかる手段として選択されるべきでしょう。

皆様の近親者におかれまして、残念ながら入院し、胃ろうの話が出た際、ご本人・ご家族のご意向は、医療側として十分尊重しますので、PEGについての理解、メリット・デメリットを知り、不明な点があれば是非主治医に質問頂き、納得の上、方針決定されることをお願いいたします。長文乱文、わかりにくい医療用語など失礼しました。

※1 我が国での現状は、新規胃瘻造設患者は、年間20万人程度といわれ、すでに継続して施行しているかたのPEG交換を含めると、年間の造設・交換施行数はのへ30万人から40万人程度と推測されます。今後は、保険適応など国の方針が変わらなければ、2025年くらいまでは、高齢者が増え続けるので、同じ比率で考えると、100万件程度の可能性があると考えられています。

※2 NPO法人PEGドクターズネットワーク(PDN)のWebサイトに、この放送への感想・意見がのっています。興味ある方はご覧下さい。PEGについての大変有益な情報も多数ありますのでご活用下さい。
http://www.peg.or.jp/news/etv/index.html

※3 我が国では、リビングウィルに類するものとして、日本尊厳死協会による「尊厳死の宣言書」がありますが、現状ではリビングウィルの法的効力はありません。持続的 植物状態の患者に対するだけでなく、終末期患者一般に対する強制栄養・水分補給を含む医療の中止も検討される傾向が出てきています。
 PEG造設にかかわらず、老衰や悪性腫瘍により緩やかに終末期を迎える場合に、栄養を十分摂ることが良いかどうかは、患者さんごとに答えが異なり、以下の点に留意し、個別に選択されるべき事であるとされます。
(1)事前指示を得て、本人の意志を尊重する
(2)倫理的な配慮をする
(3)法的、経済的な配慮をする
(4)感情的な配慮をこころがける
(5)文化的背景を理解する
(6)宗教を尊重する
(7)以上のことを考慮した上で、患者の家族に説明を十分する