内科だより  腎臓の病気について

 内科医師  床尾 万寿雄

(1)診断、症状

 「腎臓の病気」というと、最近の臓器移植のニュースから透析ということが頭に浮かぶ方も多いと思われます。腎臓の働きが数年から数十年かけてゆっくりと低下する病態を慢性腎不全といいます。原因はいろいろありますが、末期の症状は共通で尿毒症と呼ばれ、透析治療が必要となります。透析は人工腎臓ともいわれ、他臓器では移植が曲要な場合でも腎疾患では透析で治療できます。透析患者さんは増加の一途であり、しかも、高齢の方や糖尿病が原因の透析患者さんが非常に増えているため、社会的にも医療経済的にも重要な問題となってます。その対策はいろいろと研究されてますがまだ具体的な解決方法はありません。しかし、早期の段階で腎臓の病気を診断し、治療を始めることが透析にまで至らないようにするために大切です。
ひとくちに腎臓病といってもその種類はいろいろです。一般に腎炎といわれているものが一番多く見られますが、これには風邪をひいた後などに急に発症する急性腎炎やほとんど無症状の慢性の糸球体腎炎などがあります。顔や手足の浮腫が高度の場合にはネフローゼ症候群ということもあります。また、全身性疾患に伴うものもあり、糖尿病に合併する腎症が代表的なもので、高齢の方では高血圧に伴った腎硬化症、さらに女性に多い膠原病に合併するものもあります。遺伝性の多発性嚢胞腎も時々みられます。
 腎臓病の症状についてですが、腎臓病はこれといった特徴的な症状の少ない病気で、赤色の肉眼的血尿で受診される方もいますが、慢性の腎炎では症状がまったくなく、検診時に血尿や蛋白尿で始めて指摘されることもよくみられます。一方、体がだるい、疲れやすいなどといったごくありふれた症状が実は腎臓病の前触れだったということもあります。また細菌感染が原因である腎孟炎では高い熱が認められ、尿管結石では強い腹痛があります。腎臓の病気はよくむくむといわれ、確かに、むくみは腎臓病の重大な症状ですが、他にも、心臓や肝臓、甲状腺などの病気でもむくみが見られますので鑑別が必要です。腎臓の病気でもネフローゼ症候群を除くと、それほど多いものではありません。
 病状が進んで腎臓の働きが低下してくると食欲不振、吐き気が出ますし、貧血が起こると顔色が悪くなり動悸や息切れといった症状が出てきます。また、血圧が上がり、頭痛、呼吸困難がみられることもあります。その他にかゆみ、しびれ、筋肉痛などもみられ、ひどいときには意識障害となることもあります。これらはいわゆる尿毒症と呼ばれる症状で高度な場合には透析が必要となることもあります。

(2)治療、食事、運動

腎臓の病気の確実な予防法は残念ながらまだなく、慢性の腎臓病は確かになおすことが困難で厄介な病気のひとつです。しかし、腎炎の始まりは咽頭炎や扁桃腺炎などの上気道の感染症の後に起こることも多く、また、軽い腎炎が発熱後に急に悪化することもあります。したがって、蛋白尿が出ているといわれている方はもちろんですが、健康な人でもごくありふれた風邪をきちんと治しておくことが大切です。また、お年寄りの方はインフルエンザなどの高熱や嘔吐、下痢が続くと体の水分が不足して脱水になりやすく、これが原因で急性の腎不全となることがよく見られます。したがって食事はともかく、最低水分だけはこまめに摂るよう注意が必要です。また若い人でも水分をとらずに長時間激しい運動や炎天下での作業を続けるとやはり急性腎不全をきたすことがあります。
 今日ではいろいろな病気の予防システムとして健康診断が普及しています。癌の発見とは意義は異なりますが、腎臓病もやはり少しでも早く発見することが病状を正確につかみ、以降の経過を予測するうえで重要ですから、学校や職場で検診があるときには睡ず尿検査も受けるようにすることが大切です。そして、もし異常が認められたら症状がなくても一度は医師に相談するようにしてください。蛋白尿が高度の場合は腎生検という検査をすることもあります。
 腎臓病の治療には、ネフローゼ症候群のほかは残念ながらこれといった特効薬は現在まだありません。抗血小板剤というお薬を使うことが多いですが、腎炎の活動性が強い時には副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤といった強力な薬を使うことがあります。副作用もありますが、勝手に中止しないよう医師の指示にしたがって、治療を継続することが肝要です。腎臓病では血圧の管理が非常に重要なため高血圧がある万はその治療も必要です。患者さんによっては漢方薬が有効な場合もあります。ところで様々な民間療法も宣伝されてますが、これらの中には効かないだけではなく、病態によっては急に症状を悪化させることもあるため注意が必要です。

正しい食事療法をすることで肝臓の病状をより安定させることも…

 腎臓の病気では昔から食事療法の重要性がいわれていますが、内容は大きく変わってきています。食事療法というと食事全体を制限することだけを考えがちですが、腎臓病のタイプや病気の程度によってまちまちなので、自分の病状にあった食事療法について専門の先生や栄養士によく相談してから 始めることが必要です。塩分制限だけではなく、蛋白制限必要な場合もあります。全てではありませんが、正しい食事療法をすることによって腎臓の病状をより安定させることも可能となってきました。
 運動が腎臓の病気に及ぼす影響についてはまだはっきりした根拠はありませんが、一般には長距離の水泳やマラソン、登山などの過激な運動は控えるべきです。しかし、軽症で進行しないと考えられる場合には厳しすぎる運動制限は好ましくなく、身体的にも心理的にも健康の増進を目的として、体操や散歩程度の運動は債極的にしてください。腎機能が高度に低下していたり蛋白尿が多い場合を除けばゴルフやテニスも構いません。結局は腎臓病の病期・病態にあわせた運動内容が睡要ということです。
 すでに腎臓病にかかられている方で日頃注意すべきことを簡単にまとめると以下の通りです。まず、“かぜ”に注意すること、脱水にならないように水分を補給すること、食餌療法、以外に、血圧コントロールが非常に大切です。血圧は腎臓の様々な働きによって調節されていることが明らかとなってきており、このため腎臓病の人は高血圧になりやすく、高血圧は腎臓病の重症度の指標の一つです。また逆に高血圧を放置しておくとますます腎臓の働きが低下し、さらに心不全や脳卒中の誘因ともなるため血圧の測定と高血圧の治療はますます重要となってきています。
 現在、正常血圧の基準は最高値が140mmHg、最低値が90mmHgとされていますが、糖尿病や腎臓病を合併している方は130/80mmHg以下とこれよりももっと低くするよう奨められています。しかし問題なのが血圧測定そのものです。血圧は一日の中でも変動しており、一般に昼間は高く睡眠中は低下します。季節や年齢でも変動がみられます。また、外来受診時のみの血圧測定だけでは不十分で、病院でのみ高くなる方もいます。現在では、簡単で実用的な血圧計が市販されてますので、可能ならば家庭での自己血圧測定をした万が診断や治療に参考となります。
 高血圧以外にも糖尿病や高脂血症、痛風といった生活習慣病もある方はあわせて治療をしていくことが腎臓の病気を悪くさせない上で大切です。また、抗生物質や解熱鎮痛剤の飲みすぎでも腎臓の働きが悪化することがあるため注意が必要です。